The Idiot, the Curse, and the Magic Academy

Chapter 53



「お嬢様、申し訳ございません。わたくしがツカサ様を誘ったのです」

クロエが間に入って、シャルに謝罪する。

「あなた? え? なんで家に連れてきたの?」

「わたくしも武術を多少はかじっていますが、武術というのは継続が大事なのです」

「いや、だったら起こしなさいよ」

「もう一つ言うと、体調が悪い時にやっても怪我のリスクが増えるだけで良いことなんてありません」

確かに……

「でも……」

「ツカサ様の勉強会もあるのでしょう? まずは体調を整えることが大事です。6時が8時になろうと変わりません」

まあ、変わらんな。

「そう……ツカサ、ごめんなさいね。昨日は遅かったのよ」

「聞いた、聞いた。仕方がないことだし、朝食とコーヒーを御馳走になったから問題ない」

美味かった。

「ごめんね……ちょっと準備してくるわ。クロエ、来なさい」

「かしこまりました。ツカサ様、少々、お待ちください」

クロエが頭を下げると、2人はリビングから出ていった。

暇だなーと思い、持ってきたカバンから基礎学の教本を取り出し、読みだす。

そのまま待っていると、運動着に着替えたシャルがクロエと共に戻ってきた。

「あら? 待っている間に勉強なんてやる気十分ね」

シャルがそう言いながら席につく。

クロエはキッチンの方に向かった。

「いや、褒め待ち。親の前で勉強する子供の感じ」

「何よ、それ?」

優等生はこのアピールを知らないらしい。

「好感度稼ぎ」

「バカじゃないの?」

シャルがそう言って笑う。

「お嬢様、朝食です。どうぞ」

シャルの前にさっき俺が食べたものと同じものが置かれた。

「ありがと」

シャルはクロエに礼を言うと、朝食を食べだす。

俺はそんなシャルの対面で基礎学の教本を読んでいた。

「シャルさー、武術の訓練ってどこでやる? 公園まで行くか?」

「時間も8時になっているし、ちょっと嫌ね」

さすがに人も増えているだろうし、俺も嫌だ。

「どこでやる?」

「ウチの庭でいいでしょう」

そう言われたので窓の外を見ると、公園ほど広くはないが、訓練をやるには十分な庭が見えた。

しかも、芝生であり、地面は柔らかそう。

「お嬢様、先に勉強をなさってはいかがでしょうか? 運動した後だと、汗を流したいでしょうし、お嬢様はここが家なので問題ありませんが、ツカサ様は着替えを持ってきてないと思われます」

クロエが進言してくる。

「あ、持ってきてないわ」

「確かにそうね……先にテスト対策をしましょう」

「そうだな……」

そう言いながら基礎学の教本をカバンにしまう。

「やめたし……あなたってわかりやすいわね」

先に楽しい武術の方をやると思っていたから機嫌よくつまんない教本を読んでいたが、そうじゃくて勉強をするならいいや。

「すぐやるならその時でいい」

「あなたって本当に勉強が嫌いなのね。だったら別にもういいんじゃない? 多分、今でも最初の基礎学なら受かると思うわよ」

そうなのかね?

「いや、やる。ちょっと良い点を取りたいし、最近はそこまで勉強も苦じゃないんだ」

一人では一切、やらないがね。

頭が痛くなるもん。

「まあ、わからないでもないわね。私も武術って好きじゃないから一人で訓練する気はないけど、誰かとやるなら楽しくやれる」

「そうだよなー」

不思議だね。

◆◇◆

私は2人の会話をニコニコしながら聞いている。

でも、内心はちょっとバカにしていた。

この2人、子供だな……

よく言えば、純粋。

嫌いなものを誰かとやったからといって楽しくなんてならない。

当たり前である。

この2人が苦手なものを頑張れるのはお互いがお互いのことを好きだからだ。

好きな人が見ているから頑張れる、好きな人が教えてくれるから頑張れる。

この2人は完全にこれである。

この好きがどういう好きなのかはわからない。

友情か、愛情か……

この2人は話を聞く限り、まだ愛情にはいっていない気がする。

でも、年頃の男女の行き着く先は決まっている。

特に人付き合いが苦手なお嬢様は確実にそこにいく。

さて、その時になったらこの2人はどうするのか……

イヴェールとラ・フォルジュ……交わることのない家同士だ。

幸いなことはツカサ様がラ・フォルジュを名乗っていないこと。

はたして、それだけでどうにかなるものか……

「そういやさ、この前、電話で言ってたすんごいものって何?」

ツカサ様がお嬢様に聞く。

すると、食後のコーヒーを飲んでいるお嬢様がドヤ顔になった。

「よくぞ聞いてくれたわ。はい、これ」

お嬢様が上機嫌で空間魔法から黒色の液体が入った小瓶を取り出す。

「……醤油?」

「なんで醤油なのよ……確かにそれっぽいけど」

うん、醤油に見える。

「じゃあ、何?」

「ポーションよ、ポーション」

「ポーション?」

「忘れたの? あなたがコーラ味のポーションを作れって言ったんじゃないの」

すごいこと言うな……

「そこまで言ってないけど、作ったの?」

「ええ、苦労したわよ。特に炭酸ね。後は風味。普通にやってもただの砂糖の味しかしなかったから特別な薬草を使ったの。クアの葉とサイラの葉ね。あと、レンシの実を少しだけ入れることで、よりコーラの風味に近づけたのよ」

すごい早口……

オタクの悪いところが出ている。

「ふーん……すごいなー……でも、なんで黒いの? ポーションって透明か青じゃないの? あ、魔力を回復するやつは赤かった」

「魔力回復ポーション? 赤いやつって高いわよ? よく知ってるわね」

「え? えーっと、なんかウチにあった」

「へー……まあ、あってもおかしくはないか。黒いのはね、そうしないとコーラっぽくならないからよ」

すごいな、ツカサ様……

ちゃんと錬金術オタクと話ができてる……

私も夕食時とかに聞いているが、ほぼ流して、聞いていないというのに。

「コーラっぽくないって何?」

「味や風味を近づけたのまでは良かったんだけど、青いコーラってコーラっぽくないわけ。なんか飲んだ時に違和感があるのよ」

「あ、なんかテレビでやってた! かき氷がうんちゃらかんちゃらって……何だっけ?」

ツカサ様、聞き上手だな……

「かき氷のシロップは実は色や香料が違うだけで同じ味ってやつでしょ。人は味を舌だけじゃなくて、匂いや見た目で判別するのよ」

「それそれ。なるほど……そんな感じか」

「そういうことよ」

お嬢様が満足げにうんうんと頷く。

この2人の相性が良い理由がよくわかる。

「コーラかー……飲んでみてもいい?」

「あ、帰ってからにしなさい。コーラ味のポーションは上手くできたんだけど、欠点があるのよ」

「欠点?」

「携帯できないことね。ポーションなのに携帯できない」

それ、致命的では?

「なんで? 炭酸だから?」

どうでもよくないですかね?

別に炭酸が抜けてもいいでしょうが。

ポーションの用途はあくまでも回復なのだ。

「惜しい! コーラってね、冷やさないと不味いのよ。だから冷蔵庫に入れておかないといけなくて、携帯できない」

もっとどうでもよかった……

「そりゃダメだわ。じゃあ、帰って冷蔵庫に入れておく」

「うんうん。あ、2つあげるからトウコさんにもあげなさい。双子はケンカするでしょう?」

お嬢様がそう言って、もう1つ黒いポーションを取り出した。

「いや、子供じゃないんだから……」

ツカサ様はそう言いつつ、ポーションを2つ受け取る。

「あなた達、しょうもないケンカばっかりじゃないの……さて、そろそろ勉強の時間ね」

時刻は8時半になっている。

「お嬢様、どこでやりますか? お嬢様のお部屋?」

「ここでいいでしょ。私の部屋、汚いし」

それ、男の前で言う?

「ポーションでも転がってんの?」

「ポーションだけじゃなくて書類とかもね。綺麗なのは寝室だけど、机がないからそこで勉強はできないし」

夜の勉強になりますもんね!

へへっ。

「少ししか寝てないしな。布団の誘惑に負けると思う」

「大丈夫よ。目覚ましのコーヒーも飲んだし」

「ふーん、まあ、眠くなったら寝てもいいからな」

「大丈夫だっての。ちょっと待ってなさい。勉強道具を取ってくるから」

お嬢様がそう言って立ち上がり、リビングを出ていった。

「昼飯を食ってちょっとした辺りの2時くらいに寝るな」

ツカサ様が私を見てくる。

「だと思います。まあ、仮眠も大事でしょう。ツカサ様もどうですか? お嬢様のベッドって大きいですよ?」

まあ、逆に寝られなくなるでしょうけどね!

うへへ。

「俺は昨日、めっちゃ寝てるから大丈夫」

この人、全然下ネタに乗ってこないな……

つまんない……

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