The Idiot, the Curse, and the Magic Academy

Chapter 47



決闘騒動が終わってからひと月余りが経った。

あれから特に問題は起きていない。

学園で授業を受け、週末にはシャルと武術の訓練と勉強会をする。

基本はこの生活リズムで過ごしており、平和な学校生活を送っていた。

犬猿の仲と呼ばれたトウコとシャルもぶつかっていない。

ちょっと前に2人がすれ違う場面を遠目に見たのだが、お互いに睨むこともなく、むしろ、目を逸らしながらすれ違っていた。

理由はもちろん、トウコとシャルの仲違いがなくなったからだ。

さらに言えば、シャルとは隔週でウチかファミレスで勉強会をしているため、ウチに来た際にはトウコとも普通に話すようになったのだ。

だから睨み合うこともできないし、家のことがあるから仲良くしゃべることもできない。

結果、お互いにお互いのことを見えないフリをしてすれ違う。

見てて笑えた。

そんな風に学園生活を楽しんでいた俺はとある日曜日に母親と一緒に学園を訪れ、校長室で校長先生と会っていた。

「ふーむ……」

校長先生は俺の左腕を取り、腕輪に触れながらじーっと確認している。

「先生、どうですか?」

母さんが聞くと、校長先生が顔を上げた。

「まず聞きたいんですが、なんで腕輪が黒くなっているんです?」

俺の左腕にある金ぴか腕輪は黒色に変化していた。

「ダサいんでマジックで塗りました」

この前、ユイカに似合ってないって言われたから爺ちゃんのアドバイスを採用することにしたのだ。

優しいクラスメイトもシャルも絶対に触れなかったことなのに……

「そ、そうですか……」

「僕、思春期なんです」

金の腕輪なんて嫌だよ。

「すみません……」

母さんが謝った。

「いえいえ。わかります、わかります……」

さすがは教育者のトップだ。

「それでどうなってます? 取れますかね?」

取れればダサいとかは関係なくなる。

「あれから色々と文献を調べてはいますが、手掛かりは見つかっていません。ジゼルさんの方は?」

校長先生が首を横に振ると、母さんに聞く。

「ラ・フォルジュの家でも解呪ができる魔法使いを探しているのですが、上手くいっていません」

「呪術師は数も少なく、忙しいですからな……」

やっぱり人気職業っぽい。

「先生、ツカサの魔力はどうですか?」

「若干ですが、下がっているように感じます。ですが、正直に言いますとツカサ君の魔力は大きいので誤差の気もしますね……まあ、今のところは問題はないかと思われます」

「一応、魔力を回復させるポーションを飲ませているんですが……」

あの婆ちゃんが送ってくれた不味いやつね。

毎日寝る前に飲まされているが、ちょっと嫌。

シャルみたいに改良しろよ。

「うーん……どうですかねー? ツカサ君は魔力を放出させるタイプの魔法使いではないですしね。実はあれから調べてみたんですが、この腕輪は魔力を奪いますが、それは単純な魔力ではなく、ツカサ君自身の魔力の源を奪うみたいなんです」

源って言われても意味わからないんですけど……

「せんせー、わかんないでーす」

「そうですな……魔力というのはよく水差しに例えられます。基本的に魔法を使うというのは水差しからコップに水を注ぐことなのです。当然、水を注げば水差しの水は減ります。ですが、これは時間の経過で回復するのです。ツカサ君の場合はこの水差しが他の人よりも大きいうえにコップに水を注ぐタイプの魔法使いではなく、水差しの水を変化させるタイプの魔法使いなのです。だから基本的には水差しの水が減ることはないです」

俺ってゲームで言うとMPが多いくせにMPを消費しない魔法使いなんだな。

これだけだとクソ使えないお荷物だが、俺はそのMPで攻撃力と防御力を上げられる。

うん、きっと強い!

「でも、先生。だったら問題なくないですか? 腕輪は魔力を奪うかもしれないけど、時間経過で回復するわけでしょ?」

「それが魔力の源を奪う話に繋がります。渇望の腕輪は水差しの水を奪うだけでなく、水差し自体も小さくするみたいなんです」

え!?

つまり俺の最大MPが減ってるってこと!?

俺の唯一の長所よ?

「ダメじゃん」

「ほんの少しずつですよ。ツカサ君の水差しは本当に大きいので今のところはまったく問題ありません。ですが、これが年単位になってくると厳しくなります。もって5年……」

5年のうちに解呪するか腕を失うわけだ。

「5年かー……」

「長いようで短いです。これを伝えるかは悩んだんですが、伝えます。腕輪はツカサ君の水差しを小さくしています。時間の経過と共にどんどんと小さくなります。ツカサ君の魔法使いとしての最大の強みはその大きな水差しです。どこかで折り合いをつける必要があります」

ん?

「どういうことです?」

「渇望の腕輪の呪いが解けても失った魔力が回復するとは限りません。つまり、ツカサ君は魔力という才能を失っていっている可能性があるんです。だからいずれ選ばないといけないのです。才能か腕か」

「腕に決まってんじゃん。バカか」

何を言ってんだよ。

「バカですか?」

「いや、普通、腕を取りません?」

そう言うと、校長先生が首を横に振った。

「大半の魔法使いは才能を取ります」

「え?」

マジ?

「実際、私もツカサ君の魔力を得られるなら腕を失ってもいいと考えます」

うそー……

「俺は絶対に腕だわー」

「最初から持っているからか、それとも魔法使いの経験が薄いか、もしくは、それがツカサ君の性格か……どれかはわかりません。ですが、ほとんどの魔法使いが才能を選ぶのは事実です」

そう言われたので母さんを見る。

「私はマコトさんの妻であり、あなた達の親です。私は結婚する時に魔法よりも家庭を選んだのです。だから腕を取ります。ですが、若い頃だったら確実に才能を選びます」

マジかー……

「うーん……でも、やっぱり腕かなー? 左腕がないと戦えないじゃん」

「確かにツカサ君はそっち方面を得意とする魔法使いですからそういう考え方もあります。ですが、このことは頭の隅に置いておいてください。まだ若い君にこんな考えを伝えるのは気が引けますがね」

いや、腕だよ、腕。

考慮にも値せんわ。

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