The Idiot, the Curse, and the Magic Academy

Chapter 49



授業が終わり、家に戻った俺は部屋でゴロゴロと過ごしていた。

そして、夕方になると、トウコが部屋にやってくる。

「お兄ちゃんさー、今日、ユイカと演習をしたんだけど、めっちゃニヤニヤしてた。何か知ってる?」

「知らんなー」

あいつ、いつも無表情のくせに顔に出すからなー……

隠し事ができるんだろうか?

「うーん……よくわかんないなー」

「そもそもよくわかんない奴だろ。ものすごく良いように言うと、独特」

普通に言えば、何も考えていないバカ。

「まあねー……あ、お兄ちゃんさ、今度テストがあるでしょ」

家に帰っても話題はテストか。

まあ、午前の授業の時は俺が振ったんだけど。

「そうだなー。お前は勉強ができるんだから父さんと母さんを喜ばしてやれ」

俺達は双子。

トウコの功績は俺の功績なのだ。

「それだよ、それ。私、考えたんだけどさ、お兄ちゃんが良い成績を取れば、お母さんの機嫌がマックスになると思うんだよ。多分、泣くね」

泣くかもな。

すぐに泣くんだもん。

「良い成績を取れるかは知らんが、最下位にならん程度に頑張るつもりだぞ」

「そこはもっと頑張ってよ。会長にお願いしてさー、特訓してもらいなよ」

「何? 今度は対お前じゃなくて、対ユイカか?」

今度はシャルじゃなくて、俺だけど。

「そんな感じ。それでお兄ちゃんが良い成績を取ってお母さんの機嫌が良くなったタイミングで町の外に行きたいって言おうよ。きっとお母さんも頷いてくれるよ?」

なるほど。

ありえる。

「頷くかもなー。じゃあまあ……って感じ」

「でしょ。自分の親をこう言いたくないけど、お母さんってお嬢様じゃん。甘々だから絶対に強く拒否できない」

そんな感じはする。

「父さんはどうする?」

「お父さんはお母さんが頷けば、何も言わないでしょ」

まあ、そうかも……

「頑張るの俺だけ?」

「いや、私はずっと頑張ってるから……普段、頑張らないお兄ちゃんが頑張るんだよ」

うーん、まあ……

「シャルが付き合ってくれるかね? シャルもテストがあるじゃん」

「とりあえず、聞いてみなよ。どっちみち、クラスは違えどテストは同じじゃん」

と言っても受ける科目が違うからなー。

俺、歴史とか薬草学を取ってないし。

「じゃあ、聞いてみるか……でも、シャルは優しいからなー……頼まれたら断れないっていうパターンが一番きついんだよなー」

めっちゃ悪い気がする。

「大丈夫! 会長は優秀だし、問題ないよ。むしろ、頼られるのが好きだよ、きっと!」

根拠ゼロでやんの。

「ちょっと電話してみるからお前は黙ってろよ」

「黙ってる!」

うるせー……

俺はスマホを取り出し、シャルに電話をかけてみる。

すると、数コールで呼び出し音が止んだ。

『ツカサ?』

シャルだ。

「急に電話して悪いな。今大丈夫か?」

『ええ。授業も終わって家で休んでいるところ。あ、今度会った時にすんごいものを見せてあげるわ。ツカサが喜ぶものよ』

すんごいもの……

俺が喜ぶもの……

「……なんかえっちだね」

うるせーなー……

ちょっと黙ってろ。

「何それ?」

『今度会った時のお楽しみ。それで何の用?』

なんかご機嫌だな……

「ああ、ちょっとお願いがあってさー」

『お願い? 何かしら?』

「勉強を見てほしいんだよ。いつものだけじゃなくて、テストまで集中的にさー」

『ああ、そういうこと。別にいいわよ』

あっさりオーケーをもらってしまった。

「頼んでおいてなんだけど、いいの? シャルも勉強があるでしょ」

『特別、テスト勉強なんてしないわよ。毎日、予習復習してるし、いつものことをしておけば問題ないわ』

テスト前になると、クラスに勉強してないわーって言う奴が何人かはいたが、シャルは絶対にそういう奴らとは違うんだろうなー……

「じゃあ、お願いしてもいいかな?」

『いいわよ。それにしても、どういう風の吹き回し? あなた、勉強嫌いでしょ』

「長瀬さんちの家庭事情的にちょっとした打算がある」

『お小遣いでももらえるの? それともトライデント?』

シャルはトライデントの部分はバカにしたように笑った。

「トライデントは買ってくれないけど、そんな感じ。あと、ユイカに負けたくない」

『ユイカさん? あー、まあ……何とも言えないわね』

シャルは本当に優しい。

これがトウコやイルメラだったら『どっちもバカだもんね』って言う。

「向こうにはノエルがついてんだよ」

『ノエルがねー……』

シャルが言い淀む。

「あ、ノエルの名前を出したらマズかった?」

確か、ノエルは家的にはシャルの派閥だが、ノエル自身は自由派で血統派のシャルとは思想が逆という複雑な感じだったはずだ。

『なんでよ。別に仲が悪いわけじゃないし、普通に出して良いわよ。ただ、ノエルってそういうのが上手だったかもーって思い出しただけ』

上手?

教えるのがかな?

「そうなの?」

『同じ中学だったけど、勉強会なんかを開いていた記憶がある』

この言い方だと、絶対にシャルは参加してないな。

「へー……となるとマズいような気がしてきた」

『そうねー……あの2人は寮生だもの。ノエルはもちろんだけど、ユイカさんも私達みたいな半寮生じゃなくて、完全な寮生ね。もっと言うと、あの2人って部屋が隣同士よ』

隣同士なのは初耳だが、ユイカが早起きできなくて完全な寮生なのは聞いている。

「あいつらは本当に勉強漬けができるわけだ」

『そうなるわね』

俺達が話していると、急にトウコが近づいてきて、スマホを見せてくる。

【ウチに泊まりに来いよって言ってみて】

無言でトウコの頭を叩いた。

『ん? 何の音?』

「なんでもない。虫がいただけ」

お邪魔虫。

『虫……え? もしかして、そこにトウコさんがいる?』

「おい……誰が虫だ」

トウコ虫が低い声を出す。

俺もちょっとひどいと思った。

『あ、ごめん。ツカサがそう言うのはトウコさんかなって思って……というか、いるならいるって言ってくれないかしら?』

「お邪魔かなって思って……愛の語らい……」

『ツッコミどころが多いわね。お邪魔と思うなら外すべきだし、愛の語らいの場面なんかあった? 真面目な勉強の話じゃないの』

シャルは真面目だなー。

トウコの言うことなんて、くだらない率90パーセントだからほぼスルーで良いのに。

「……気付いてない」

『何か言った?』

「ううん。お兄ちゃんの勉強を見てあげて。結構、長瀬さんちの大事なことなの。親不孝の元ニート裏口入学兄貴に親孝行させてあげて……うっうっ」

ほら、くだらない率90パーセントの言動。

『そうね……』

あれ?

シャルリーヌさん?

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。

よろしくお願いします!



Tip: You can use left, right, A and D keyboard keys to browse between chapters.